『子どものお口の健康は親のこころを育むことから』
『子どものお口の健康は親のこころを育むことから』
平成21年(2009年)3月発行
日本歯学系学会協議会は歯科と医科との連携を進めています
急速な少子・高齢化が進み、患者さんの視点に立った安全で質の高い医療を安心して受けられることが強く求められています。具体的に言えば、生活習慣病の予防を徹底し、地域における日常生活を尊重する医療の連携を進めることが提案されています。
このような状況の中で、歯科保健・医療は、口の健康に加え、全身の健康を視野に入れたより積極的な提供が求められています。また、歯科は歯科同士の連携や医科との連携はもちろんのこと、地域における多職種との堅実な連携も求められています。
歯学系の73の学会から組織されている一般社団法人 日本歯学系学会協議会では、これらの連携をよりスムースで効果を上げるための努力をするかたわら、その重要性を広く社会や国民の皆様に理解していただくために啓発活動を進めています。
このリーフレットでは、小児歯科医が小児科医と連携して子どものお口の健康を守る重要性について、説明させていただきます。
母乳栄養でもむし歯に気をつけましょう
母乳には栄養学的、免疫学的、精神的な効能があります。また、母乳を与えることは、強い親子の結びつきを育む効果がありますので、母乳栄養を大切にしてください。しかし、母乳の飲み方がむし歯と関係することは、あまり知られていません。母乳を飲むときには、舌を突き出し、乳首を上あごに押しつけてしごいて飲むため、上の前歯に母乳が付着しやすくなります。通常は唾液がこれを洗い流してくれますが、夜間には、唾液の分泌量が減るため、上の前歯がむし歯になりやすくなるのです。
大切なことは、日頃から歯をきれいにしておくことで、母乳を与えても歯を健康に保つことができます。1歳過ぎでは、離乳食後ごとに歯を磨くのが理想ですが、むずかしいようなら、夕食の離乳食後にしっかり磨きましょう。奥歯が生え始め、離乳の完了頃には食べかすが残りやすく、そこに母乳が加わればむし歯にかかりやすくなります。離乳完了時期を過ぎても母乳を与えている場合には、歯をきれいにすることに特に気を配りましょう。
イオン飲料はむし歯の原因となります
口腔の健康に対する養育者の関心が高まった結果として、むし歯は減少しており、さらにむし歯も軽度になっています。一方、乳幼児期から学童期では、重度なむし歯が目立っています。その原因の1つとして、イオン飲料が関係しています。イオン飲料は癖になりやすく、pH が3.6 ~ 4.6 と低いことから、長時間飲み続けると、むし歯の原因になります。しかし、下痢などで小児科を受診したときに、医師からイオン飲料を勧められることが多いため、養育者がよい飲み物と思いこみ、積極的に与えて習慣化してしまいます。
大切なことは、下痢やおう吐などの症状が軽快したら、イオン飲料はやめましょう。イオン飲料の与え方は、必要最小限にとどめ、習慣化しないように心がけましょう。
おしゃぶりは2歳半までにやめましょう
おしゃぶりは、「舌やあごの発達を助けて鼻呼吸をうながす」といわれていますが、現時点では学問的に検証されたものではありません。また、おしゃぶりと咬み合わせに関する調査では、長期に使用すると咬み合わせに悪い影響を与えることがわかっています。しかし、おしゃぶりを使用する利点として、精神的な安定、簡単に泣きやむ、スムースに眠りに入るなどが挙げられ、お母さんの子育てに対するストレスが軽減するともいわれています。
大切なことは、おしゃぶりを使用している間も、声かけや一緒に遊ぶなど、子どもとのふれあいを心がけることです。2歳半までには使用をやめなければなりませんが、4歳を過ぎてもおしゃぶりが取れない場合には、情緒的な面を考慮して、かかりつけの小児歯科医に相談しましょう。
3歳過ぎての指しゃぶりは歯ならびにも影響します
指しゃぶりは、専門領域ごとに意見が異なっているので、指しゃぶりを気にしている保護者には不安に感じる方が多いと思います。子どもの発達と指しゃぶりとの関係は、すでに胎児期の母乳を飲むための練習から始まりますが、外遊びや友達と遊ぶようになる3歳頃には、指しゃぶりの頻度も自然に減少していきます。小児科では、指しゃぶりを生理的な人間の行為ととらえ、子どもの生活環境や心理状態を重視して無理にやめさせないという考えが多くあります。一方、小児歯科では、歯ならびと咬み合わせを健全に発達させる観点から、4~5歳を過ぎた指しゃぶりは指導しなければならないと考えています。
指しゃぶりは3歳頃までは特別な配慮は必要ありません。大切なことは、無理に指しゃぶりをやめさせることよりも、子どもの生活のリズムを整え、外遊びや適度な運動、手や口を使う機会を増やすよう心がけることです。
子育てとお口の健康について-小児歯科医の取り組み-
小児歯科医は、お口の健康という観点から子育てに関する様々な問題に取り組んでいますが、時として小児科医との意見の相違に直面することがあります。子どもの健康という目標を一つにするチャイルドヘルスプロフェッショナル(CHP)の間で異なった意見が伝えられれば、当惑するのは親の皆さんであり、お子さん達です。近年、このような問題が社会的に取り上げられるようになりましたので、小児歯科医と小児科医が同じテーブルについて話し合うようになりました。その中でも、特に保護者にとって関心の高い歯科的問題を取り上げ、小児歯科医と小児科医で作られた委員会が中心となり、課題ごとの「考え方」を総意という形で、広く国民のみなさまに公開しています。