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『口の動きを整えて健全な睡眠を』

口の動きを整えて健全な睡眠を

『口の動きを整えて健全な睡眠を』
平成17年(2005年)12月発行

はじめに

不健全な睡眠は心身の働きや日常生活に大きな影響を及ぼしますが、口の働きや健康にも様々な問題をもたらします。

日本学術会議では第18期に、睡眠学の創設と研究推進に関する報告を公表しました。この主旨に沿って歯科が果すべき役割を検討ため、日本学術会議第19期の歯学系の3つの研究連絡委員会では日本歯学系学会連絡協議会と連携をとり、医科系の3つの研究連絡委員会の支援を得て報告をまとめました。

睡眠と歯科的問題との関連を多くの方に知っていただくために、日本歯学系学会連絡協議会では要点をパンフレットにまとめました。

睡眠と歯科のかかわり

睡眠には、休息という受動的な役割だけでなく、自律神経系、内分泌機能、免疫機能、記憶などに作用する能動的な役割があります。

これらの役割によって覚醒時の身体の活動が保障され、心身の健康が維持されているのです。

健全な睡眠が妨げられるとこれらの役割が十分に果たされず、不眠症、過眠症、睡眠覚醒リズム障害、睡眠随伴症などの睡眠障害が起こります。同時に口の働きにも変調が生じて、歯科的な問題が起こるのです。

不健全な睡眠と歯科的問題

不健全な睡眠と関連する歯科的問題には、睡眠時の歯ぎしり、睡眠時無呼吸症候群、歯に原因しない口腔顔面痛、側頭(頭蓋)下顎障害(いわゆる顎関節症)などがあります。

睡眠時の歯ぎしりと歯科的問題

歯ぎしりは、無意識のうちに上下の歯をこすり合わせたり (グラインディング)、くいしばったり(クレンチング)、 カチカチと噛み合わせたり(タッピング)する癖です。
ストレスによる自律神経や中枢神経の活動、あるいは上下の歯の接触異常などの局所的原因によって顎の筋が活動するためと考えられています。

睡眠時に強い歯ぎしりを繰り返すと、歯がすりへったり、 歯の修復物(むし歯に詰めたもの)や補綴装置(冠、ブリッジ、 養歯など)が破損したり、歯周組織や顎筋、顎関節に破壊的な影響が及んだり、口腔顔面痛や顎関節症を誘発することがあります

睡眠時無呼吸症候群と歯科的治療法

睡眠時無呼吸症候群は、睡眠時に呼吸が何回か停止して低酸素血症を起こし、各種臓器に障害をもたらす症候群で、日中に眠気や倦怠感を示す特徴があります。これには、睡眠時に舌根が沈下して上気道が間歇的に閉鎖する閉塞型と、呼吸中枢からの指令が-時的に途絶える中枢型があります。閉塞型に対して、口腔内装置を適用して下顎と舌を前方へ誘導し、睡眠時の咽頭部の気道狭窄や閉塞を防ぐ治療法があります。

まず、呼吸器科や耳鼻咽喉科の医師が睡眠検査や診断を担当し、次いで歯科医師が歯列、咬み合わせ、顎や舌の位置の検査を担当して口腔内装置を適用することで症状が改善する事も多いのです。診断と処置が適切であれば効果が期待できます。ただし、口腔内装置の適用によって咬み合わせや顎の位置に病的な変化が起きることがあるので、継続した診察必要です。

口腔顔面痛・顎関節症と睡眠障害

口腔顔面痛は、眼、耳、脳などの固有の痛みを除いた口腔顔面の疼痛性疾患で、むし歯や歯周病に次いで多い歯科疾患です。 これには、顎関節症、歯が原因の疼病、頭頸部の筋・筋膜性疼痛、緊張型頭痛などの筋骨格系疼痛、偏頭痛などの神経血管性疼痛、三叉神経痛、非定型歯痛などの神経囚性疼痛が含まれます。

このうち、顎関節症は、①咀嚼筋群・耳前部・顎関節部の痛み、 ②下顎の運動制限、③下顎運動時の関節雑音、を主な症状とする顎の機能障害です。成り立ちには、顎関節構造の異常、関節の過伸展、顔面外傷、咬み合わせの異常、歯ぎしりなどの口腔習癖、社会心理的因子、痛みの伝達神経の異常、全身的因子などが複合していて、多因子性の機能障害と呼ばれています。

口腔顔面痛に睡眠障害を伴う場合には、不眠や昼間の眠気、疲労などの訴えがあり、症状の改善は遅く、複数の診療料や整骨院・鍼灸院を遍歴することもあります。

健全な睡眠に貢献するための提言

  1. 不健全な睡眠と歯科的問題との関連を解明するために、睡眠と口の働きや構造との関係について、関連領域が連携して基礎的・臨床的研究を推進する必要があります。
  2. 閉塞型の睡眠時無呼吸症候群に対する口腔内装置の適用について、検査・診断から治療効果の判定まで含めたガイドラインの検討が必要です。このためには医科と歯科とが連携した臨床研究拠点を設置して、臨床疫学研究を推進する必要があります。
  3. 閉塞型の睡眠時無呼吸症候群に対する口腔内装置には、2004年から保険が適用されました。睡眠医学や口腔内装置の適用と副作用、医科と歯科との連携について、医療関係者が研修する機会を整備するとともに、医学・歯学の教育カリキュラムにも取り入れる必要があります。

まとめ

わが国の成人の5人に1人は睡眠障害をもつといわれています。睡眠が障害されると身体各部に変調が生じますが、口の働きにも変調が生じて様々な歯科的問題が起こります。

しかし、睡眠と歯科的問題との関係は十分に解明されておらず、対応も十分ではありません。関連領域による基礎的・臨床的研究の推進、診療のガイドラインの検討、医療関係者の研修と教育力リキュラムの整備が望まれます。

参考資料

  • 日本学術会議「精神医学、生理学、呼吸器学、環境保健学、行動科学研究、連絡委員会報告:睡眠学の創設と研究推進の提言」平成14年5月20日
  • 日本学術会議「口腔機能学、齲蝕学・歯周病学、咬合学、精神医学、呼吸器学、生理学研究連絡委員会報告:口腔環境を整えて健全な睡眠を」平成17年7月21日

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